偉大なる王のワイン「バローロ」

Photo By Megan Mallen (Flickr: Piemonte, Italy) [CC BY 2.0], via Wikimedia Commons

イタリアを代表する偉大なワイン「バローロ」。時に「王のワイン、ワインの王」と称され、力強く繊細でもあり、長命なワインの象徴としての地位を確固たるものとしていました。バローロには、晩熟品種で気難しいとされる「ネッビオーロ」のみが使用され、品種としては13世紀頃から歴史に登場しています。

当初は発酵の問題もあって甘口ワインとして造られていましたが、醸造技術の進歩により、19世紀中頃になってから遂に辛口としてのバローロが誕生します。こういった大きな醸造上の変化を経た後、宮廷で供され「王」としての地位を築くことになります。その知名度の高まりとともに幅広い層にも浸透していきますが、その後1900年代に入り、世界中で猛威を振るうことになるフィロキセラ禍や、世界大戦に端を発する大不況など、非常に困難な時代に突入することで、その名声には陰りが訪れます。

同じように固有の単一品種で造られ、その土地の個性が存分に発揮されたブルゴーニュが、世界的な名声を経て高値で取引される一方で、時代の流れに反し停滞したバローロのスタイルは、「伝統的」と言えば聞こえはいいものの、市場の求めるワインとは大きく乖離し、人気、売上ともに低迷していきます。この状況に危機感を持った一部の生産者が、「グリーンハーベスト」「ロータリーファーメンターを使用した短期間でのマセラシオン」「バリック熟成」など、当時の最新技術を一気に導入し、果実味を重視した飲みやすいスタイルのバローロ造りを開始します。これが大きな転機となり、アメリカ市場を中心にしたモダン・バローロの潮流が加速し、「バローロ・ボーイズ」と呼ばれる生産者のワインが世界中で高値で取引されるようになります。この流れはバローロの復活と躍進に対して大いに役立ちましたが、歴史を重んじる昔ながらの伝統的生産者との間に新たな軋轢を生み、消費者も含めて革新近代派と伝統派との間で多大な論争が巻き起こる、騒乱の時代へと突入します。

モダン化の弊害として生まれた「似通った味のバローロの乱立」により、消費者の「飽き」が加速したことや、2000年代に入って更に進化する醸造技術によって、画一的なバローロからの脱却、そしてバローロ・ボーイズの解体など、バローロを取り巻く流れは新たな局面へと進んでいきます。改革派は原点回帰を模索し、伝統派は品質向上のために最新技術を投入するなど、市場の要求に応えながらも、新たな時代のバローロ像を模索し始めるという、次の一歩が動き出します。そしてここに来て、よりテロワールを重視する「クリュ・バローロ」の流れに一気に注目が集まります。

バローロは伝統的に様々なクリュのブレンドによって造られ、複雑性と多様性を力強さの中に内包するのが基本形でしたが、バローロ・ボーイズが登場した80年代以降、「単一畑のみで造るバローロ」が数多く誕生し、この流れに追いつく形で遂に法整備が整います。「Menzione Geografica Aggiuntiva」という法律が2010年に施行され、以降、181の畑について追加言及することが認められましたが、逆に「複数の畑をブレンドした場合は、それらの畑の名をラベルに記せなくなる」「そもそも、単一の畑としてどこまでの区画を認めるか」など、また新たな火種を生む結果にも繋がっています。当然ながら「単一畑はバローロの伝統ではない」という考えを持つ生産者も多々いるので、再び伝統派と現代派の間で新たな軋轢が生まれつつありますが、歴史は繰り返される…という点からしても、この流れを前向きに捉えてしっかり咀嚼し、昇華していくことで、未来に繋がる新たなバローロ像が生まれていくのかもしれません。

味わいの傾向

バローロの味わいは複雑で多岐にわたりますが、伝統寄りか現代寄りかという生産者のスタイルによる違いだけでなく、畑の位置や向き、そして標高などによっても大きく変化します。DOCGとして認められたバローロの産地は、村としてのバローロだけでなく、その周辺の村にまで及ぶので、まずは各村の特徴を理解するのが近道となります。

主な傾向としてあげられるのが、生産地域を東西南北に分割した時のそれぞれのエリアの特徴で、西側のラ・モッラやバローロはよりエレガントで優しさや優雅さがより強調され、逆に東側のセッラルンガ・ダルバはよりパワフルで厳格なタンニンを誇ります。カスティリオーネ・ファッレットやモンフォルテ・ダルバも、土壌的にはセッラルンガ・ダルバと同系統なので重めに仕上がりますが、実際にはラ・モッラに近い畑ではよりエレガントに、セッラルンガ・ダルバに近い畑ではよりパワフルになる傾向にあります。

気候としては、北側に行くほど温暖になり、逆に南側に行くほど冷涼になる傾向にあります。実際には畑の標高や向きによっても変化するので一部例外はありますが、各地域の大まかな傾向を頭に入れておくと、複雑なバローロの各クリュについてもより理解が深まると思います。