特別特集「エトナ」
イタリア南端に位置するシチリア島。地中海に囲まれた温暖な気候と豊かな日照量の恩恵もあり、大地の恵みを存分に生かした豊かなワインが数多く産出されています。そんなシチリアの中でも、標高の高さによる激しい寒暖差と火山性土壌という固有のテロワールから、ミネラルを感じる端正でピュアなスタイルのワインを生み出す最大の注目産地が「エトナ」となります。
大地の恵みと多様なテロワールが結実。
世界で最も活動的な火山のひとつとしても知られる「エトナ火山」を中心にして、生産エリアは東西南北に大きく広がりますが、中でもより高い品質の赤ワインが多く産出されるのがエトナ火山の北側で、特に「パッソピッシャーロ」近郊には著名な生産者が結集している傾向にあります。
パッソピッシャーロ近郊の生産者
- テヌータ・デッレ・テッレ・ネーレ Tenuta delle Terre Nere
- グラーチ Azienda Agricola Graci S.r.l.
- フランク・コーネリッセン Frank Cornelissen
- ジローラモ・ルッソ Girolamo Russo
- プラネタ シャラヌオーヴァ Planeta Sciaranuova
- パッソピッシャーロ Passopisciaro S.r.l.
一般的にシチリアと言えば、温暖な気候を感じる濃厚な風味をイメージしがちですが、エトナは標高が400~1,300mと非常に高い上にレンジも幅広く、シチリアの中では冷涼な気候で昼と夜の寒暖差が非常に大きくエレガントなワインが生まれるという特徴があります。中でもエトナ北部は相対的に酸が強くなる傾向にあり、土壌も南部より黒色でミネラルが強く、土着品種のネレッロ・マスカレーゼの個性をより明確に反映する土地として、19世紀後半から高い評価を確立しています。
また、エトナ北部と言っても実際にはその東西によってテロワールに違いがあり、相対的に温暖で肉厚なワインが生まれるパッソピッシャーロや、より冷涼でタイトなボディや酸を持つ繊細なワインが生まれるロヴィッテッロなど、各地によってその特性は異なります。そしてそこにエトナ火山特有の標高差によって生まれるミクロクリマ、その多様性が加味されることで、バローロやブルゴーニュにも類似する固有のテロワールを感じる素晴らしいワインが生まれています。
現在進行形、その進化が大いなる魅力。
近年起きたシチリアブームや醸造技術の革新により、イタリア本土から大手ワイナリーの参入なども相次ぎ、この地が持つ独自のテロワールによる個性と果実の高い熟度を両立させた、現代的で高い水準のワインが数多く見られるのも特徴で、各標高ごとの畑を個別にボトリングした単一区画ワインの存在や、逆に多くの畑をブレンドして複雑さやバランスを重視したスタイルなど、生産者によって試行錯誤と進化が現在進行形で続いているのも大きな魅力のひとつとなっています。
テヌータ・デッレ・テッレ・ネーレ Tenuta delle Terre Nere
一時代を築いたモダン・バローロの潮流、通称「バローロ・ボーイズ」とも呼ばれた動きの仕掛け人こそが、イタリアワイン商として世界中を渡り歩いてきた「マルコ・デ・グラツィア」。数多くのワインを扱ってきた彼が最終的に行き着いたのが、エトナで興した自らのワイナリー「テッレ・ネーレ」。単一区画の畑が持つ個性を表現し、テロワールの魅力を存分に感じさせる美しく繊細なワインを生み出しています。
グラーチ Azienda Agricola Graci S.r.l.
銀行業からの転身で、2004年にワイン造りを始めた若手生産者が「アルベルト・アイエッロ」。ファースト・ヴィンテージが2005年と歴史はまだ浅いものの、バローロのような厳格でエレガントなワインを目指し、情熱と高い志を持ってワイン造りにあたっています。既に若手生産者を牽引する存在でもあり、今後の発展にさらなる期待が集まります。
ジローラモ・ルッソ Girolamo Russo
2003年に父が急死したことで、急遽ワイナリーを引き継いだのが息子の「ジュゼッペ・ルッソ」。ワイン造りとしては新参者ながら、フランケッティやコーネリッセンなどの先駆者に教えを請い、短期間で若手生産者を代表する程の名声を獲得するに至っています。また、サン・ロレンツォやフェウドといった優れた畑を所有しているのも特徴で、豊かな果実の魅力を感じる素晴らしいワインを世に送り出しています。
パッソピッシャーロ Passopisciaro S.r.l.
スカーナを代表するワイン「テヌータ・ディ・トリノーロ」のオーナーでもある「アンドレア・フランケッティ」が、この偉大なエトナという地に進出したのが2000年。エトナでも標高が高い区画を中心に畑を購入していき、2008年以降は単一区画のテロワールと土着品種のネレッロ・マスカレーゼの持つ個性を表現することにより力を注いでいます。
アルタ・モーラ Alta Mora
ディエゴ&アルベルトのクズマーノ兄弟が、父フランチェスコとともにエトナで始めた新プロジェクトがこの「アルタ・モーラ」。何年にもわたる調査の後、2013年4月にエトナ山の北側斜面に最初の3つのコントラーデを購入。現在進行形で進むこのプロジェクトは、現在、グアルディオーラ、フェウド・ディ・メッツォ、ピエトラマリーナ、ソリッキアータ、ヴェルツェッラと言う5つのコントラーデに拡張されています。
ベナンティ Benanti
1800年代末にエトナ南東部にある「ヴィアグランデ」でワイン造りを開始。その後畑は細分化されてしまいますが、1988年に初代の孫となる現当主「ジュゼッペ・ベナンティ」が畑を買い戻して復興。エトナ火山を中心に、東西南北全ての斜面に畑を所有し、樹齢100年を超える自根葡萄も多く健在。新たな生産者が数多く生まれるエトナにおいて、伝統的なエトナ本来の味わいを守り続ける稀有な存在でもあります。