- Very Good Quality -
かつての故郷を取り戻すと言う想いのもとで造られたのが、この特別栽培米の純米大吟醸「幸の鳥」。一般的に特別栽培米と言えば、農薬や化学肥料の窒素成分を5割以下に抑えて栽培された米のことを指しますが、この幸の鳥で実施されている「コウノトリ育む農法」では、農薬や化学肥料を使用しないだけでなく、そこで生きる生物達との共存を目指し、冬でも田圃に水を貯めるなどの特別な管理を行なっています(一升瓶あたり6m2の田圃が無農薬で維持されている)。精米歩合は40%(山田錦)でアルコール分は15度。
使用されているボトルやラベルなどは、日本酒というよりも「ワイン」といった趣があり、クロージャーは一升瓶用の王冠にゾークのような螺旋状のストッパーが組み合わさった斬新なスタイルで、ブルゴーニュタイプのボトルにラベルの表記が英語主体になっている点など、どちらかというと国際市場をより強く意識して造られた製品という印象を受けます(2023年11月に新発売した竹泉のフラッグシップ)。反面、造りはいたって本格的かつ伝統的で、乳酸菌を増殖させることで雑菌の汚染を防ぐ、江戸初期には製法が確立されていた「生酛」で仕込まれているというのが最大の特徴になります。
生酛らしい複雑さと風味の豊かさ、そして黄色系の酸味が加わりながらも、全体像としては竹泉の他のキュヴェと同様にそつなく綺麗に纏まっているのが印象的で、速醸酵母で造られる通常の「幸の鳥」とは想像以上に異なる指向性、そして世界観となっています。開栓日は酸味と辛味が主体となっていて、やや大人しく纏まっている傾向にありましたが、「熨斗目色ヴィンテージ」や「飴色ヴィンテージ」と同様に、翌日以降に持ち越すことで一気に風味が豊かになり、当初はマスキングされていた丸みのある優しい甘みが全体に心地よく染み渡る傾向にあります。通常の幸の鳥(2024/06のロットは未掲載)はコントラストがハッキリしていて、甘味と辛味が両立して存在している傾向にありましたが、生酛仕込は各要素の一体感が明らかに高く、その質感と風味の豊かさににはフラッグシップらしい存在感があります。
(2024/07)