- Recommended -
元々はシャトー・ザンクト・パウルの周囲に広がる森でしたが、城主に許可を得て自ら開墾した畑がこの「ザンクト・パウル」。歴史のあるカマーベルクよりは樹齢がやや若いものの(約20年)、石灰岩が隆起した土壌に寒暖差のある気候など、特別区画のハイデンライヒも含め、非常に素晴らしいテロワールを有しています。
ザンクト・パウルの区画は表土がほとんどないということもあり、カマーベルクと比較すると硬質感のある表情が印象的で、より落ち着きのある端正で整った佇まいとなっています。骨格となる、軋みを感じる収斂要素はシュヴァイゲナーと同様ですが、グラン・クリュに相応しい果実の力が明確に伝わり(特にテクスチャ)、そこから生じる多層化された緻密さ、そしてベッカーらしい甘みや旨みなど、様々なクオリティ要素が収斂要素を覆っている傾向にあるので、必要以上にネガティブな印象を受けることはありません。
2009年のカルクゲシュタインは熟成感が出始めていましたが、ザンクト・パウルはまだ若さも感じられ、まさにちょうど今からが飲み頃といった印象を受けます。とはいえ、抜栓翌日に持ち越した場合は、カルクゲシュタインと同様に果実要素がなだらかに減衰し、それとともにしっかりとした酸がより前面に出てくる傾向にあるので、内包する魅力とのバランス面を考慮すると、抜栓日に飲みきってしまう方がベターな印象でもあります。2008年は、より良好な作柄と言われる2007年と2009年の間に挟まれた、少し弱めのヴィンテージということが影響しているのかもしれませんが、それでもグラン・クリュとしてのポテンシャルは十二分に感じられるので、ベッカーの世界観をより掘り下げるためにも、是非お薦めしたいところではあります(唯一のネックは割高な価格)。
(2017/03)