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フリウリで造られるメルロー100%のスペシャル・キュヴェがこの「グラフ・ド・ラ・トゥール」ですが、トスカーナを代表とするマーケティング主導型の「スーパーメルローワイン」とは大きく異なる世界観を持ち、優に100年を超えるフランス系品種の歴史などからして、既に土着品種といえる程の独自性を見出しているとも言えます。
これがフリウリという地の特性なのか、ごく一般的な2003年のイメージとはまったく異なる佇まいがあります。同年同品種のリコルマとは大きく異なる世界観なのでかなり驚かされますが(比較対象にならないぐらい違う)、より涼しく仄かな陰的傾向にあり、なによりその「複雑な表情」と「極めて高い個性」に多大なる美点があります。
体躯そのものの質はいたって柔らかく、心地よい果実感も程よく伝わりますが、薬草や香草などの多様性ある風味に胡椒系のスパイシーさが絡む表情が非常に印象的で、その世界に一歩足を踏み入れると、薄らと霧が漂うヒンヤリした森林が目前にあらわれ(屋敷の畔にあるようなやや小振りなスケール感)、一切の緩みなくゆったり広がる様子にすっかり魅了されます。
タンニンはいたって強固で、微細な粒子とともに結構な収斂感を生み出していますが(こういったタンニンの質はリコルマやラッパリータと共通)、全体的なバランス感や落ち着きある佇まいからか、若さや硬さよりも「ポテンシャル要素」として伝わるので、今飲んでも十分堪能することが出来ます。
リコルマのような分かりやすい美味しさはそれほど持ち合わせていないかもしれませんが、秀でた個性や完成度、そして良質なポテンシャルなど、補って余りある程の多くの美点があり、歴然と地に足が付いているからこそ発揮されるその世界観は、もっと高く評価されて然るべきものだと言えます(ある意味「世間の注目度が低い穴ワイン」と言えるかも?)。生産量が少ない(6,200本)という大きな問題もありますが、こぞって入手を争うような類いのワインではないので、異常な価格高騰に振り回されることはないと思います。現実的に購入可能という意味においてもお薦めしたい1本です。
(2008/11)