- Good Quality -
名実ともにフラッグシップとしての確固たる地位を築く、造り手を代表する一本がこの「テヌータ・ディ・トリノーロ」。基本的には、石英と石灰岩が豊富な、薄くて硬い岩で構成された土壌で(標高450〜600m)、樹齢が高く最初に選別されたより良質な葡萄を用いて造られます。セパージュは、カベルネ・フラン、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨン、プティ・ヴェルドによるブレンドが基本形ですが、実際にはヴィンテージごとに変化し、今回試飲した2018年はカベルネ・フラン59%、メルロー41%と、2品種によるブレンドで構成されています。熟成はフレンチオークの新樽で8ヶ月、セメントタンクで11ヶ月。生産本数は7,000本のみ。
猛暑だった2017年からは一転、2018年はより涼しく均一な気温になりましたが、実際の印象も終始滑らかかつ流麗な傾向にあり、2017年のカンポシリーズとは全く別指向の資質と表情が広がります。カンポシリーズはとことんまで凝縮度を高めたような、インクや墨汁を彷彿とさせる濃密さと、微細で多くの澱が溶け込んだ泥土的な資質が印象的でしたが、トリノーロに関しては完全に真逆の質感で、いたってクリアかつクリーン、一切澱のない端正な表情が基軸となっています。確かにコアにはモダンな凝縮感があり、樽の仕立てやニュアンスはカンポ・ディ・カマージに似た傾向にありますが、それでも涼しいヴィンテージらしい綺麗なグリーンノートのハーブ風味がより明確で、とにかく印象的なのが「今すぐ飲んでも抜栓直後からバランスの取れた素直な美味しさが広がる」という点で、いついかなる場面であっても常に一定水準の内容を発揮してくれるような安定したスタイルが構築されています。価格帯や市場の高評価から想像するような孤高で圧倒的な存在感はなく、いたって現実的なレベルで日常的に接するワインとしての完成度と安定感を求めたようなスタイルということもあり、拍子抜けするほど心地よく飲み進めてしまいますが(それでも実際のアルコール度数は15.5%もあるので要注意)、逆にいうと高い訴求力や存在感を放つようなスタイルではないので、完全なブラインドによる比較だとインパクトのあるハイエンド系ワインに負けて埋もれてしまうかもしれません。
翌日に持ち越すと、当初感じられた酸やハーブ風味などの軽快な要素が一旦落ち着き、逆に緻密なボディと丸みのある充足感が主体となりますが、それでも全体像は終始変わらず「素直に楽しめる落ち着いたワイン」といったものなので、実像が現実的な分、逆に非日常的すぎる価格帯がどうしても足を引っ張る傾向にはありそうです。以前、10年以上熟成させたトリノーロのオールドヴィンテージを試した時も同様の感覚を覚えたのですが、基本的にはいついかなる時でも安定して無理なく美味しいと言った、ある種究極のリアリストを体現しているような姿でもあるので、あくまでもこの価格帯のワインを日常的に嗜むことができる富裕層向け限定と言った存在なのかもしれません(一般層が奮発して特別な時に飲むようなタイプのワインではなさそう)。
(2022/10)