- Very Good Quality -
ボルドー右岸、ポムロルを代表する超一流の生産者がシャトー・ペトリュス。作付け比率としてはメルロー95%、カベルネ・フラン5%ですが、厳しい選別を行っていることもあり、実際にはほとんどのヴィンテージでメルロー100%となります。
今回の1975年は、1970年、1971年と共に、70年代を代表する偉大なヴィンテージで、純粋な寿命という観点としては、この時代に限らず、全てのペトリュスを通して屈指の長寿命となっています(パーカーの飲み頃予想は2005〜2040年)。
ちなみに今回のロットは、2000年にフランスから空輸され、その後2002年から現在まで14度設定のセラーでほぼ動かすことなく保管した貴重な1本となります。
コルクはかなり脆くはなっているものの、それでも長い年月を経ていることを考えると、相対的には意外としっかりしている印象で、オールド・ヴィンテージを扱い慣れている人であればそこまで苦労することはなさそうです。そしてコルクを抜いた瞬間から、熟成した妖艶さを感じる果実の香りが一気に広がり、その世界観に素直に引き込まれます。エッジは少しアンバーがかっているものの、ややくすみのある濃い色調で、かなりしっかりした力のある色調ということもあってか、半世紀近い年月を経たような印象は特に感じられません。
第一印象は「素直に美味しい」という驚きの結果に。75年というヴィンテージの特徴や、この年のペトリュスの特徴からして、未だ圧倒的なタンニンに支配されているのではないかという懸念もありましたが、他の傑出したメルロー100%のワインとも共通する濃密な果実の甘みが今尚感じられ、抜栓直後から非常に高い訴求力を発揮してくれます。時間とともにどんどん魅力が開花していくので、一歩間違えると短時間であっさり飲みきってしまいそうな印象すら受けますが、その実、背後にはかなり膨大なタンニンが鎮座していて、一旦果実味が落ち着くと、今度はじわじわと強い苦味を持つ強固な表情が前に出始めます(大きく広がるタイプではなく、どちらかというとやや内向的な印象)。
念のために翌日にも持ち越してみましたが、流石に陽的な果実味は影を潜めるものの、それでも本質的なエネルギーが減衰するようなことは特になく、むしろ屈強な体躯と結束力の高いタンニンが一切のブレを見せずに佇んでいるような印象を受けます。果実の表情が熟れているので、古酒的な妖艶さの一端は感じられますが、それでも全体像としては半世紀近い年月を経ているような印象はなく、まだ20〜25年程度しか経っていないような表情でもあるので、今後もまだまだ10年から20年程度は余裕を持って熟成していきそうな印象すら受けます(恐ろしく長寿命なのは間違いない)。長期熟成による結果なのか、屈強ではあるものの、若い頃にあったであろう無骨さは一切感じられず、むしろ荒さのない落ち着いた表情なのが非常に印象的で、どことなく75年のラトゥールを彷彿とさせるタンニン力ではあるものの、実際にはなんら無理なくスルスルと飲めてしまいます。
このヴィンテージに限ったことではなく、ペトリュスという存在自体が常に非現実的な価格帯に位置しているので、結果として一部の富裕層やコレクター、そして投資家向けといった存在になってしまっていますが、それでもその高価格に納得させられるような、非常に高い水準のポテンシャルを持っているのは確かなので、この価格帯のワインを購入検討するような層からすれば、実際に飲んだとしてもガッカリするようなことはなく、相応の満足感が得られると思います。そういう意味では、個別のボトル差や、現在までの流通経路や保存状況、そして偽物に当たる可能性といった側面の方が、より注意すべき懸念材料と言えるかもしれません。
(2020/11)