- Very Good Quality -
佐藤嘉晃、恭子夫妻による小さなプロジェクトとして、2009年に始まったのが「サトウ・ワインズ」。もともとは銀行員だったという異色の経歴の持ち主ですが、転勤先のロンドンでワインに目覚め、ワインを造りたいという思いにかられ、最終的にニュージーランドにたどり着きます。セントラル・オタゴを代表する偉大な生産者「フェルトン・ロード」でキャリアを重ねたこともあり(恭子さんは現在もフェルトン・ロードの栽培に関与)、サトウ・ワインズも同じセントラル・オタゴを拠点としています。
サトウ・ワインズのスタンダードなピノ・ノワールは、クロムウェルのすぐ北、ダンスタン湖の西側にある「ピサ・テラス・ヴィンヤード」から造られます。2014年の全房比率は17%で、熟成は古樽のフレンチ・オーク・バレルで17ヶ月間、生産本数は僅か5,280本(ボトリングは2015年11月4日)となっています。2014年がファースト・ヴィンテージとなる新キュヴェ「ノースバーン」が、ダンスタン湖の東側にある畑から造られるので、湖を中心にして左岸か右岸かというテロワールの違いを、両方のキュヴェを飲み比べることで明確に感じ取ることができます。両者の土壌は同じですが、ピサ・テラス・ヴィンヤードの畑はクロムウェル盆地の西側に位置していることもあり、朝早くから十分な日照量を得ることができるという大きな特徴があります。
果実そのものの熟度と凝縮度は高いものの、ボディそのものは比較的エレガントでピノらしい軽やかさを十分維持していることもあってか、第一印象としては比較的ブルゴーニュに近いスタイルを感じる傾向にあり、どことなくモレ・サン・ドニやジュヴレ・シャンベルタンのような雰囲気を感じます。果実味そのものは黒系寄りで、ニューワールドらしい濃密な表情は感じられますが、後味にかけて伸びるしっかりとした酸が印象的ということもあってか、アタック重視のスタイルとは異なる、心地良さを感じる良質な世界観となっています。抜栓日は果実味主体で、翌日に持ち越すと堅牢性やタンニン等の基礎的構成要素の方にスポットが当たる傾向にありますが、前年までに見られたサトウ・ワインズ特有の表情の硬さは特に感じられず、襟を正した落ち着きを残してうまく昇華している印象を受けます。僅かに還元臭や酢酸系のニュアンスが感じられるのも確かですが、果実そのものが充実していることもあってか、適度なアクセントとして捉えられる範囲で、必要以上にネガティブな印象は受けません(敏感な人だとやや気になるかも?)。
全体的に、2013年よりも一段階完成度が向上したように感じられ、同時に今後のヴィンテージでさらなる成長と進化が期待できそうな印象でもあります。一般層向けという観点からすると、アタックから濃密で明快な表情が打ち出されるノースバーンの方に利点がありそうな気もしますが、個人的にはこのスタンダードキュヴェの成長をじっくり見守ってみたい気持ちではあります。
(2020/10)