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女帝と呼ばれた「マリア・テレジア」の命により、この地で現当主の祖先「ヨーゼフ・アントン・マイヤー」が畑の開墾を行ったようです。歴史と伝統のある由緒正しき造り手ですが、この「ラマレイン」は新たな発想によって造られたワインで、葡萄を陰干しして造られるヴェネトの「アマローネ」を参考に、土着品種のラグレインを陰干してから造られます(ラグレイン+アマローネ=ラマレイン)。ファースト・ヴィンテージは1988年ですが、毎年造られるようになったのは1997年からで、今回の2005年は僅か5,100本のみの生産となっています。
恐ろしく濃い色調を持ち、反対側がまったく見えないほどの漆黒さとなっていますが、単純に濃いというだけでなく、極微細な粒子が一切の隙間無く液体内に封じ込められているかのような印象を受けます。いざ口にすると、その外見に反し中身は思いのほか軽快で、高凝縮度かつ高アルコール(15%)系ということをすっかり忘れてしまうほどの柔和さや親近感が広がります。逞しさや剛直さといった風情はあくまで背中で語り、こちらへ向かってくるのは優しい笑顔と解れた立ち振る舞いのみといった感じではありますが、それ故に造り手を代表するような絶対的な存在感や孤高のオーラは特に感じられません(少なくとも抜栓日は…)。常連さんのみが知る「裏メニュー」を代表する逸品であったり、地元の漁師さんのみが知っている本当に美味しい食材など、どこか正統な系譜とは異なる角度で突き詰めたような「知る人ぞ知る」といった印象を当初は受けました。
抜栓日からなんら問題なく世界が広がってくれる傾向にあり、そのスタイルはすぐに理解することが出来ますが、王道を行くようなレイフのスタイルと比較すると、ラマレインはやや通向け(イタリアワインが本当に好きな人向け)かも…という印象を持ちながら翌日に持ち越したのですが、驚くことにその印象を全て打ち砕くほどの変化が2日目に訪れます。その世界が完全に昇華し花開いたかのようで、葡萄の持つ魅力や旨さが中心に収束し、光り輝くようにこちらに向かって一点に降り注がれます。完全に裏メニューから表メニューのトップに躍進し、そこから披露される魅力は直接脳に響くほどのものなので、もはや思考を停止しただただ興じ続けたくなります(ふとすると考えるのが馬鹿らしくなってくる)。
特に難易度が高いわけでもなく、抜栓日から遺憾なくその世界の全容が広がってくれるので、あやうくそれが全てと判断し過小評価してしまいそうになりましたが、やはりラグレインの持つ難しい側面をカバーし葡萄が本来持つであろう真の力を存分に引き出す方向で造られているだけあって、その本質的潜在能力には侮れないものがあります。全容を総括すると、果実の豊かさや素直さや鮮度感が、強いタンニンや高いアルコールに負けない力関係で存在し、それがあたかも容易なことだと感じてしまうほどの見事な一体感を伴って独自の世界を構築してくれるといったところでしょうか。ヴィンテージの特徴も影響しているのか、確かに超絶的な完成度が披露されるわけではなく、まだ現実の世界に踏みとどまっている印象ではありますが、それでもやはり「一度は経験しておくべき逸品」だということに違いはありません。現実的には希少性が高く高価格ではありますが、それを乗り越えるだけの価値は十分あると思うので、もし機会があれば是非試してもらいたいところです(といっても無理する必要性はありません)。
(2010/02)