- Very Good Quality -
ピーター・シセックが手掛ける超弩級ワイン「ピングス」。そしてそのセカンドにあたるポジションに位置するのがこの「フロール・デ・ピングス」です。葡萄はスペインが誇る高貴品種「テンプラニーリョ」のみを使用(平均樹齢35年)。80%が新樽のフレンチバリックで18ヶ月間、20%が1年樽で熟成されます。生産本数は47,300本。2000年からビオディナミを導入し、2003年には完全移行を果たします。
ビリャクレセス同様、そのエネルギーがすべて無理なく制御され、適度な一体感を生み出しています。いたってモダンな非常に良く出来たワインではありますが、愚直なまでに己の道を貫き、多少飲み手を置き去りにする傾向にもあるので、誰にでも楽しめるといった指向性のワイン達とはやや趣を異にするかもしれません。
非常に強く痺れるようなタンニンが体躯中央に1本ビシッと通り、そこからは強烈なまでの意思とエネルギーが発せられています。しかし、その周囲を囲む要素は思いのほか柔らかく、豊満ながらもエッジにかけててやや緩さがみられるので、逆に言うとこのタンニン力ありきで成り立っている状態なのかもしれません。特に抜栓日は終始力強く突き進み、兼ね備えたエネルギーとポテンシャル由来の迫力が遺憾なく伝わってきます(性質は思いのほかシンプル)。
翌日に持ち越すと、驚く程のまろやかさをみせ、どこか大黒柱のみが吹き飛んで仄柔らかい体躯のみが取り残されたような世界観が漂います。普通に飲んで楽しめる領域に降りてきたこともあり、多少あっけにとられる心境ではありますが、緩やかな余韻の広がりに「祭の後」といった儚さはなく、まだまだしっかりした存在力を示しているので、これはこれでアリと言えるのかもしれません(アルコールの高さがやや気になりますが…)。
非常に良質なワインであることに違いはありませんが、もしかすると「上っ面を脱がせて本質を露にすると、実はそう大したことはない(いたって現実レベル)」のかもしれず、現実的にはWAの評価を反映したような偉大さ(オーラ)を兼ね備えたタイプでもないので、決して「誰が飲んでも高い満足感が得られる」といったタイプではないかもしれません。しかし、ピーター・シセックにまつわるサイドストーリーや、スペインワインに対する愛情、そして素直に目の前にある姿と向き合える姿勢があるのなら、それに見合うだけのものはしっかり提示してくれると思います。
(2009/04)