- Very Good Quality -
ナポレオンの生涯を描いた映画の撮影に、この畑の風景が使用されたことから「キュヴェ・シネマ」と名付けられています。畑はヘメル・アン・アード・リッジの中でも涼しい風が入る、海から5〜6km離れた標高300mのシングル・ヴィンヤードで、土壌は粘土質の頁岩。
今すぐ楽しめる明快さが印象的だった2019年とは打って変わって、今回の2000年は清涼感やハーブのニュアンスが主体となった、かなり涼やかでサッパリとした表情が主体となり、全体的にやや陰な資質にシフトしていることもあってか、従来よりも多少難易度が上がったような印象を受けます。近年のカッティングエッジなモダンワインに多く見られるようになった、赤系果実の親しみやすい魅力と、重厚で低重心な黒系果実の要素を両方同時に兼ね備えているのも特徴の一つで、表層的には軽やかでありながらも、体躯内部はスパイシーでタンニンもしっかりあり、飲みごたえも十分感じられるという興味深いバランス感覚になっています。あくまでもコントラストがハッキリとしたニューワールドらしい仕上がりですが、全房比率を60%に抑えたとはいえ、それでも高い全房比率から来るハーブ系のスパイスや硬質感、そして軋み等の複雑さが感じられることで、全体像としては思いの外ポテンシャル資質が強めに出ている印象を受けます。
抜栓日の印象だと、従来のクリスタルムらしい明快さが影を潜めている事や、ピーター・マックスのポジティブな変化と比較するとやや気難しい印象を受けましたが、驚くことに翌日に持ち越すことで状況が一変。これぞクリスタルムとでも言うべき明快な魅力が前面に打ち出され、赤系果実の甘旨味をしっかり押し出しつつも、その奥に質実系の要素をひっそりと忍ばせ堅牢な骨格として全体を支える点など、抜栓直後の印象を180度変化させるほどの昇華した姿を披露してくれます。ある意味、完全開花した姿としては2019年に比較的近いものの、そこに至るまでに多少時間を必要とする印象でもあるので、やはり以前よりも多少ポテンシャル系にシフトしたことで、初期の飲み頃に到達するまでに若干の時間を要するにようになったのかもしれません。とは言え、あくまでもアタック寄りのスタイルで、明快な魅力とそれを支えるボディの充実感が主要素で、決して余韻が長く続くようなタイプではなく、本質としての訴求力で勝負するようなタイプでもないので多少の注意は必要ですが、それでもそのクオリティに関しては十分高い水準に達していると言えそうです(今後の進化と発展に更に期待したい)。
(2022/10)