- Good Quality -
1983年に設立された、カリフォルニアのバークレーにある宝酒造の海外事業会社「Takara Sake USA(米国宝酒造)」が手掛ける純米大吟醸の限定品。「米国三十周年記念(Sho Chiku Bai 30th Anniversary Commemoration)」として2013年に誕生した特別キュヴェでもあります。使用する米は現地の栽培農家が手がける山田錦100%。精米歩合は45%。日本酒度は-2で、加水を行わない無濾過原酒ですがアルコール度数は15.5%になります。
本格的な清酒の製法で造られることに加え、この地域の水は軟水ということもあり、そのスタイルはまさに日本酒における良質な純米大吟醸と同等で、言われなければアメリカで造られているということが分からないほどの水準にあります。同じような立ち位置として、酒造好適米の出羽燦々を使用し、現地フランスで造られる「Wakaze」も印象的でしたが、あちらもはや比較対象が存在しないかのような独自の道を突き進んでいたものの、こちらは逆に「王道の日本酒らしいスタイル」になっているのが印象的です。今回試飲したのは最新のロットですが(2022年製造)、製造は1,000本程度毎のスモール・バッチで行われ、A〜Zまで一巡した後のAロットになっているので、表記されているロットナンバーでは若干分かりにくいものの、実際には現時点でも3万本弱程度の生産本数はありそうです。
受ける印象としては非常に間口が広く、かなり幅広い層に対して無理なく訴求するような、ストライクゾーンの広い安心できる世界観となっています(素直に美味しい仕上がり)。アタックには酢酸イソアミルを生かしたようなメロン系のフルーティーな心地良さが伝わるものの、それでも突出するような甘さがあるわけではなく、あくまでも落ち着きのある心地よい風味に抑えられ、そこからアフターにかけてヒリリとする辛味で全体をほどよく引き締める、終始非常にバランスのとれた良質な表情となっています。表面的には軽やかな飲みやすさを維持しつつも、ボディ内部は緻密で飲みごたえのある無濾過原酒らしい豊かさがあり、とにかくバランスのとれた全体像を常にしっかりキープするパッケージングの良さが特徴だと言えそうです。この辺りは、杜氏任せの感覚的な手法で造られるのではなく、しっかりと数値化し醸造をコントロールして造る、現代的な清酒造りを実践していることも大きな要因かもしれません。
理想的なサービス温度は10〜15度になっているので、ひや酒として提供するのが基本ではありますが、それでも温度帯に関わらずフルーティーな甘みのバランスが良好なので、個人的には少し低めの温度帯をキープして、冷酒として嗜むのも十分アリだと感じます。ただし、使用するグラスに関しては思いの外シビアな傾向にあり、ワイングラスのように空気をしっかり含んで飲むようなタイプのグラスとはやや相性が悪い傾向にあるので、素直にお猪口で飲むほうが良さそうな印象です。
アメリカという遠く離れた地でも、ここまでのクオリティを実現できていることに対して素直に驚かされますが、流石に拘りを持って造られたトップキュヴェということもあり、価格的にかなり高価なので日本で飲むのは現実的ではないというのが唯一残念な点かもしれません(為替や輸送費等の問題があるのでコストパフォーマンスに大きな問題が出る)。物価高の現地カリフォルニアで生活する人たちの基準で考えれば、逆にコストパフォーマンスが高いとも言えるので判断が難しいところではありますが、そういった側面を一旦脇に置いたとしても、とにかく世界に向けて清酒の可能性をさらに広げる存在になっているのは確かなので、受ける印象には総じてポジティブなものがあります。
※今回試飲したのは現地流通ボトルとなっています
(2022/09)