- Good Quality -
四恩醸造で長年ワインを造り続けた「小林剛士」が2016年に独立、2021年には山梨県の牧丘で自身のワイナリーも稼働させています。手掛けるワインはどのキュヴェも記号のような独特なワイン名になっていますが、今回のキュヴェはこの記号名から「2020年ヴィンテージの秋の橙(オレンジワイン)」ということが分かります(ラベルは書作家の「松尾治」)。
基本的にはスキンコンタクトによる醸し仕込みで造られていますが、若干果汁の仕込みもブレンドされているようです(ホーロータンクでオークチップとともに半年熟成)。タイプとしてはオレンジワインになりますが、使用されている葡萄がもともと淡い色調の甲州ということもあってか、あくまでもしっかりとした白ワインといった範疇に収まっているので、見た目としては概ね通常のワインといった印象です(澱の影響で若干白濁傾向にあるのでややにごり酒に近い印象)。
僅かにチリチリとした発泡感が残っている傾向にありますが、それでも必要以上に気になるレベルではないので、抜栓後に時間を置いたりしなくても特に問題なさそうです。表層はクリーンで水流のような心地よい質感でありながら、その内部には果皮成分をしっかり内包した複雑味や、シトラスピール、そしてタンニンによる収斂要素があり、同時に素直に体に染み入る旨味も感じられます(どことなくフリウリのダリオ・プリンチッチに似た雰囲気も)。
後味にかけて不意に軟質化する点や、余韻が急速に切れるのがやや気になるところではありますが、それでも造り手のビジョンが明確で、手頃な価格帯からは想像できない水準でしっかりとした意思と個性が感じられるので、受ける印象は終始ポジティブです。入手が困難という問題はあるものの、日常の価格帯でここまで明確なビジョンを披露してくれるのであれば、他のキュヴェも合わせてかなり要注目な造り手だと言えそうです。
(2022/06)