- Good Quality -
山形県に本拠地を構える、2016年創業という新世代の酒蔵が「Wakaze(ワカゼ/若勢)」。そんなWakazeが2019年にフランスのパリに進出し、ヨーロッパ最大規模となる酒蔵「Kura Grand Paris(クラ・グラン・パリ)」を創立。そして紆余曲折の末にWakazeがたどり着いたのが、18世紀末にムルソーに設立された名門ドメーヌ「ジャック・プリウール」。日本酒を世界酒とするためのビジョンを醸造長のナディーヌ・ギュブランとともに議論し、結果、ジャック・プリウールでピノ・ノワールの熟成に5年間使用した樽(フランソワ・フレール等)を使ってWakazeの清酒を熟成させるキュヴェ「ザ・バレル」が誕生します(飲み頃温度は16度)。
香りは清酒の要素と樽の要素が6:4と言った印象ですが、それでも想像以上に樽のニュアンスは控えめな傾向にあります(むしろ言われなければ分からないレベル)。他のWakazeのキュヴェよりも推奨温度が高めなこともあってか、受ける印象はかなり異なり、非常に豊満でリッチな甘味を内包する厚みのあるボディーが最大の特徴となります(アルコールも14%とやや高め)。清酒本来の辛味や硬水由来の引き締まった質感が後味にかけて広がりますが、アタックに広がる非常に豊かな甘味とのバランスがうまく取れている印象で、充足感のある全体像を構築するための一端として、樽がうまく利用されているような印象を受けます。ジャック・プリウールが使用するフランソワ・フレールの樽は焼きが通常よりもかなり浅めと言うことや、Wakaze側の熟成期間も相性をみながら一ヶ月程度に抑えていることもあってか、香りも味も特に主張するような際立った樽要素を感じることはなく、うまく全体をまとめる構成要素の一つとして組み込まれている印象で、全体的にザ・クラシックよりも精緻な表情を素直に享受することが出来ます(決してマーケティング的な理由で樽のニュアンスを効かせているようなタイプではない)。
かなりリッチな甘味を感じるものの、それでもザ・クラシックのようなフルーティーなものではなく、全体のバランスを考慮した上での純粋な甘味と言った傾向にあるので、味覚で感じる以上にバランスは良好な印象です。とはいえ、やはりアタックの甘味がかなり印象深いだけに、純粋に料理に合わせるのはかなり難易度が高い傾向にありそうです(ソーテルヌを料理と合わせる技量がある人なら問題ないかも?)。あくまでも一般家庭の日常向けとしては、気軽に飲めるザ・クラシックの方が向いている印象ですが、もし単体でも楽しめるようなリッチなタイプのWakazeを試してみたい時があれば、このザ・バレルの出番と言った印象です。
(2022/05)