鶯がラベルに描かれた日本酒「庭のうぐいす」でお馴染みの、福岡の「山口酒造場」が手がけるスパークリング日本酒です。安定供給が難しいということもあってか、現在では詳細な情報が公式サイトにも掲載されていませんが、基本的に2種類のスパークリング日本酒があり、通常のスパークリングだけでなく、非常に珍しい「ロゼ」も造られているのが大きな特徴です。そして今回はそのロゼに相当する「ピンク」の試飲となりますが、これは別途着色しているわけではなく、原料となる米に「黒米(紫黒米、紫米)」を使用している事による自然な発色となります。
使用している米は山田錦と夢一献。精米歩合は60%で、日本酒度は+3。アルコール度数は11%とやや低めに抑えられています。見た目の色調はややアンバーがかったピンクオレンジで、日本酒らしからぬピンクグレープフルーツのような色調が非常に印象的です。澱は少量のみありますが、特に気にならない程度なので、混ぜても混ぜなくてもどちらでも良さそうです。
アタックそのものはやや辛口寄りでスッキリとしていますが、全体的に日本酒らしい風味は控えめで、終始古酒のような独特の世界観が広がります。今回のロットは製造年月日が1年以上前のものなので、ある程度熟成が進んでいることは想像できましたが、その世界観は数十年熟成させたコート・デ・バールの古酒シャンパーニュを彷彿とさせるかのような雰囲気で(やや紹興酒っぽい)、かなり熟成が進んでいる傾向にあります。しかし、それ以上に気になるのが後味にかけて口に残るベタッとした「甘味」で、甘さの傾向が糖的なこともあってか、全体的にお酒というよりも炭酸飲料に近い印象を受けます(しっかり冷やさないと飲みにくそう)。熟成による古酒的な退廃感に関してはまだ許容範囲でもあり、人によってはこの枯れた風味を好む場合もありそうですが、それでもベタつきのある甘味が後味として口に残ってしまうと、なかなか料理とは合わせにくい傾向にあるので、少し扱いが難しいという印象でもあります。とはいえ、今回のロットの印象だけでは判断できない部分も多々あるので、機会があればリリース直後のフレッシュな状態のものを試してみたいところではあります。
(2021/08)