40年以上経過したオールド・バローロですが、ネッビオーロ特有の枯れたオレンジ系の色調は一切見られず、むしろ濃いめの赤から紫を感じるしっかりしたものとなっています。確かに10年単位の明確な熟成感は伝わりますが、それでも40年以上経過したような雰囲気ではなく、想像よりもしっかりした印象を受けます。
味にはかなり独特なものがあり、酸化熟成系の要素が色濃く反映され、酒精強化系やブランデーのような風味が感じられることもあって、バローロというよりも既に一般的な「ワイン」とはやや趣を異にします。コアには小気味よい果実味が感じられ、いたって普通に飲むことができるとはいえ、かなり際立った表情が非常に特徴的なので、一般的にはお薦めすることができない内容だとも言えます。ただし、ヒネや忌んだ系統の表情ではないので、とりあえず普通に飲むことは可能です(美味しいといえる部分もないわけではないが、決して飲んでいて楽しいワインではない)。
実際の中身の他にも気になる点があり、その最たるものが「コルク」。質は柔らかいものの比較的しっかりしており(40年以上前のものとは思えず)、側面にはなぜか「Espana」の文字が刻印されています。
あまりにも怪しい要素が多いので、インポーター経由で現地業者に詳細な情報提供を依頼したのですが、かなり昔にスイスの業者がイタリアのワイン商から買い付けて保存してあったもののようで、残念ながら明確なことはわからないようです。推測の範疇は脱しないものの、とりあえずコルクの文字に関しては、当時の主要生産地だった国名(スペイン、ポルトガルなど)が刻印されているのではないかということ。そして中身に関しては、実際に在庫ロットを抜栓してもらったところ、確かに一般的なネッビオーロとは異なる風味が確認され、残念ながら異なる品種がブレンドされている可能性は十分あり得るということのようです。
色調、味ともに明確に識別できるだけの差異があるので、おそらくオールド・バローロ経験者であればすぐに疑いの目で見ると思います。ただし、造り手が現存していないことや、時間が経過しすぎていて事実の究明が困難だということを考えると、総合的には「黒」とは言い切れず、あくまでも「グレー」と言わざるを得ません(もとからこういうモノいう可能性もゼロではない)。これらは単純に「古酒特有のリスクの範疇」として捉えることも可能ですが、詳細な情報を知った上で選択するのと、知らなくて(れっきとしたバローロとして)選択するのでは大きく異なるので、責任ある立場にあるインポーターや販売店には、消費者の立場に立った形でより積極的な情報開示をしてもらいたいところです。
総合的に考えた場合、ざっくり「古い赤ワイン」として認識すると、市場価格下限レンジであれば「それ相応の内容」と捉えることも可能です。しかし、オールド・バローロとして認識している場合、価格レンジの上限付近だとまず論外ですが、付随する様々なリスクを考慮すると、たとえ下限付近であってもうかつに手を出さない方が無難だと思います。現状では中身の確かさよりもリスクの方が上回っていると言わざるを得ないので、熟慮を重ねた上で選択するよう十分な注意が必要です。
(2009/01)